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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)59号 判決

主文

理由

上告代理人前堀政幸、同村田敏行の上告理由第一点ないし第三点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点について。

原審が適法に確定したところによれば、本件不動産の所有者であつた佐伯理一郎は、被上告法人の寄附行為(昭和二六年七月四日設立認可、同月一八日設立登記)並びに上告人との間で締結した昭和二七年二月一一日付売買契約及び同年一二月二五日付贈与契約により本件不動産を二重に譲渡したが、その生前いずれについてもその所有権移転登記を経由せず、その登記申請手続の委任をすることもなく昭和二八年五月三〇日死亡したところ、上告人は理一郎の死亡後、同日中に、その死亡を秘して、司法書士に対し、本件不動産につき前記売買及び贈与契約を原因とする自己のための所有権移転登記手続を依頼し、かつ、かねて保管中の理一郎の印鑑を用いて同日付で交付を受けた理一郎の印鑑証明書を添付して理一郎よりの右登記申請の委任があつたように作為し、もつて本件所有権移転登記を経由したのであり、当時、上告人は本件不動産を目的財産とする被上告法人の設立の事実をも知つていた、というのである。

そうすると、本件登記は、理一郎と上告人との間の前記売買及び贈与契約との関係に関する限りは実体に符合するということができるけれども、その登記申請手続は、登記権利者みずからが、登記義務者の死後、死者の登記申請名義を冒用したもので違法というほかはなく、また他方において、本件不動産は被上告人に二重譲渡されており、上告人もこれを知つていたのであるから、本件登記は理一郎と被上告人間における実体関係を反映するものでなく、かつ、上告人はみずからの違法な登記申請行為によつて他の譲受人である被上告人が登記を具備する機会を奪い、上告人だけが排他的な所有権取得を主張できる結果となることを自認していたものといわざるを得ない。

このように、登記が必ずしも実体関係を反映しているとはいえず、その登記申請手続の態様がそれ自体違法と目される本件の場合においては、その登記権利者たる上告人において、他に右登記申請が適法正当であると認めるに足りる事実関係を主張立証しない限り、当該登記を有効とすることはできないと解すべきであり、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第五点について。

原審は、原判決理由中の「第二、本案についての判断」の項において、被上告人たる医療法人の設立が無効であるとの上告人の主張を排斥し、被上告法人の設立を肯認して本件不動産の所有権が佐伯理一郎より被上告法人に有効に移転された旨の認定判断をしているのであり、右設立が有効か否かは、たんなる訴訟追行の資格の問題にとどまるものではなく、本訴の本案の問題そのものにほかならないのであるから、原審がこれを本案の問題として判断している以上、原判決にはなんら所論の判断遺脱、法令違背はない。論旨は、採用することができない。

(裁判長裁判官 高辻正己 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄)

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